報  告

「第5回ふくしま共同診療所報告会」に参加して
(原発と自然エネルギー研究部会 田村ゆう子)

 原発事故当時18才以下であった約37万人を対象に実施した福島県の甲状腺検査で、1回目のエコー検査を終了した約30万人のうち、甲状腺がんとその疑いのある子どもが104人、そのうちの58人は既に手術を受けているという結果が8月末発表(注1)されました。日本の子どもの甲状腺がんの発症率は年に100万人に1~3人と言われています。しかし、発表された福島県の18才以下の子どもの甲状腺がんの発症率は約3000人に1人、手術が必要だった甲状腺がんは約5000人に1人の割合です。それにもかかわらず福島県と国は「原発事故が原因とは考えにくい。スクリーニング(注2)の効果である。」と言っているのです。このことが報道されて以来気にかかっていました。
 9月7日、福島市内で「ふくしま共同診療所報告会」があるというので早速参加しました。診療所院長の松江さん、今年4月から常勤医となった布施さんの報告からは福島県・国の姿勢に対する怒りが伝わってきました。布施さんは「一般に甲状腺がんの診断は触診で相当大きくなってから発見されるもので、今回は18才以下のすべての子どもにエコー検査が実施されたが故に今までは発見できなかったがんが見つかったのであって、放射能の影響ではないと県や国は言っている。また、58人が手術を受けた報告に、症状の出ていない子どもたちに必要のない手術をしている過剰治療ではないかという甲状腺評価部会の委員からの質問に、中心となっている鈴木眞一福島県立医大教授は『声がかすれる、リンパ節などへの転移や転移の疑いがあるという場合には治療しなくてはいけない。そういう必要な人だけに手術をした。』と答えている。もしそうであるならば、全国の18才以下の子どもの甲状腺エコー検査を早急に行うべきである。」と厳しい口調で話されました。原発事故の影響ではないと言うならば、日本全国で約4000人(注3)の子どもたちの重篤な甲状腺がんが見逃されていることになります。福島県の発表では、会津地方の集計が未処理で地域差はないということでしたが、会津地方も考慮して詳しく見ていくと線量と甲状腺がんの発症率に関連がみられたそうです。福島県の甲状腺検査では、「5㎜以下の結節または20㎜以下ののう胞は2次検査の必要なし」とされています。松江さんの報告によれば共同診療所に検査に訪れた子どもの中に松江さんが「蜂の巣状」と呼んでいる蜂の巣のようにたくさんの1㎜前後以下ののう胞がある患者が見つかっています。国立がんセンター放射線診断部医長であった松江さんがかつて見たことのなかった症例だそうです。会場からの看護師の方の質問に対する答えの中で、赤ちゃんは甲状腺自体がとても小さくそこに5㎜以上の結節を発見することは困難であり、エコー検査の画像はそれほど鮮明ではなく読み取ることが難しいということでした。同じく診療所の医師、平岩さんは「診療所でエコー検査を受けた子どもの1/3が血液検査も受けていてその15%に異常所見・異常所見の疑いがあるという結果が出ている。エコーだけでなく血液検査も必要ではないか。」と言っています。
 チェルノブイリ原発の事故による甲状腺がんの増加は事故から5年後であったと言われています。事故当時は検査機器が普及していなかったので、既に増加が始まっていたかもしれません。日本でも間もなく劇的に甲状腺がんが増えるのではないか、そのとき福島県、国はどのように対処するのか危惧しているとお医者さんたちは言っていました。3年半前の3月15日から16日にかけて、群馬にも放射能雲がやってきて雨を降らせ、今なお高線量の地域が存在します。群馬の子どもたちにも甲状腺検査を実施するよう、県・国に働きかけるべきであると切に思うのです。
 会場には主催者を入れて100人ぐらいの人がいました。質問者の中には、原発作業員の方や甲状腺炎の疑いがあるといわれている孫がいるという人がいて現地の緊張感が伝わってきました。休憩をはさんだ後の講演で、講師の国会事故調査委員会委員でもあった崎山比早子さんは、「放射線は本来0でなければいけない。0以外は危険である。年に1ミリシーベルトはがまん値なのである」と述べています。このことは松江院長も報告の中で強調して言っていました。そして、会場からの質問に対して、崎山さんは「市街地は仕方がないが、人の住んでいないところを除染して人を帰すのはやめた方がいい。いったん被曝をしたら元には戻らない。」会場から拍手が起こりました。

(注1) 8/24付朝日新聞、8/25付東京新聞 手術した58人中1人良性
(注2) [医]ふるい分け。多くの対象の中から問題になるものを拾い上げること。(三省堂『コンサイスカタカナ語辞典』)
(注3) 18才以下の人口(2013/10/1現在) 21195000人
     福島県で甲状腺の手術をした子どもの割合 5000人に1人
     福島県と同じ割合で発病すると全国では
      21195000÷5000≒4000人