近現代史ゼミ(第3期・第29回、2014年7月26日)の報告  講師・内藤真治さん

「マスメディアの今を考える」

1、世界でもまれな日本の新聞
 日本の全体の発行部数は毎日約5000万部。特徴的なのは、1紙の部数が多いこと。特に五大全国紙の部数が多い。アメリカの『ニューヨークタイムズ』は約100万部、『ワシントンポスト』の66万部と比較してもその部数の多さが分かる。大衆紙的な部数の多さと社説などの主張が注目されるクオリティーペーパーの両方の特徴を持っている。大部数を可能にしているのは宅配制度と再販価格維持制度つまり定価販売の制度である。

2、世界最大の発行部数を誇る読売新聞
 渡邉恒雄の思い―「俺には幸か不幸か一千万部ある。一千万部の力で総理を動かせる。」(魚住昭『渡邉恒雄 メディアと権力』) 20年前に読売新聞が憲法改正試案を発表したとき、「積極的平和主義を追求」とあった。今、安倍内閣の使用している言葉が既に使われているのは偶然か。
 しかし、「新聞離れ」が年々進んでいる。一千万部といっていた読売も現在は900万部台になっている。
 さらに、主張の異なるはずの朝日・読売・日経連合による毎日・産経つぶしの動きもある。

3、「新聞殺すに刃物はいらぬ…」
 新聞社はその利益に反しない限り事実を報道する。広告主の不利益になる記事は出さない傾向がある。新聞はその購読料収入は全体の収入の半分以下、半分以上は広告収入である。かつて勤評闘争がさかんだった頃、朝日新聞に石川達三の「人間の壁」が連載され、日教組の動きなどが詳細に記述された。これに対して日経連は朝日新聞に広告を出さないという圧力をかけた。以後、朝日は右に旋回していったという例がある。
 広告の単価は発行部数で決まる。だから果てしない部数拡大競争となる。拡張団が大量の拡販材を持って、強引な拡張をすることになる。

4、販売店に届いた新聞が配達されずにそのまま「産業廃棄物」に
 新聞販売店には実売数より多い新聞が毎日届く。これを業界内部では「押し紙」(残紙)という。だから実売数は公表されている発行部数よりずっと少ないことになる。「折込広告」も表向きの部数と同数印刷され、大量の新聞とともに古紙回収業者に渡る。広告主は表向きの部数で広告料を支払うから、これは詐欺も同然だ。環境保護の点からも問題だ。これで販売店がもっているのは補助金と折込チラシの収入があるから。しかし、このことを販売店が裁判に訴えて、勝訴した例もある。

5、新聞社が「権力」に弱いわけ
 再販制度の維持(公正取引委員会との関係)。押し紙の「偽装」が表面化すると困る。消費税の軽減税率への期待。本業から不動産業へ(国有地払い下げ期待)などがある。

6、権力を監視する「ジャーナリズム」の復権は?―「東京新聞」の場合
東京新聞はかつては保守的な新聞だった。経営不振で身売りし、現在は中日新聞東京本社の発行。ブロック紙だが、福島民報ビルの一室に分室を置いて独自に原発事故の現状を取材するなど、最もリベラルな新聞のひとつになっている。
○発表報道より調査報道(「こちら特報部」)
○読者の声に誠実に対応する姿勢
―原発再稼働反対デモを報じなかったことについて〝謝罪〟(「読者応答室」)
―朝日から東京に変える人が続出(『週刊金曜日』2013)
●よい記事、番組を誉めることも大事
●「健全なジャーナリズム」を育てるのは賢い読者、視聴者

7、閣議決定による「集団的自衛権容認」を各紙はどう報じたか
 読売、産経は肯定的、朝日、毎日、東京、大多数の地方紙は批判的。(詳細は省略)

8、今、NHKは…
 最高決議機関は経営委員会(12人)、委員は国会の同意を得て首相が任命する。
昨年、4人が入れ替わった。いずれも安倍首相のお気に入りの人物、百田尚樹や長谷川三千子などがいる。百田委員は2月の都知事選の応援演説の問題発言もあるが、最近も「ニュースウォッチ9」の大越キャスターの「在日コリアン1世は強制連行で苦労した」という趣旨の発言に異議を唱えている。放送法は委員の個別番組への干渉を禁じているので、同法に抵触する恐れがある。長谷川委員は自殺した右翼活動家への追悼文で、「天皇は(『人間宣言』、『日本国憲法』が何と言はうと)現御神(あきつみかみ)」と述べた人物である。
 会長は経営委員会が任命する。籾井勝人会長は1月の就任会見で、慰安婦の問題や集団的自衛権についての発言のほかに、「政府が右と言うことを左と言うわけにはいかない」と発言した。放送法4条には「意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点をあきらかにすること」とある。
 これに対して、NHK退職者有志(172人)が経営委員に籾井会長の辞任か罷免を求める申し入れを行ったと報じられている。
☆イラク戦争をめぐって政権と対立したイギリスBBC放送の例
☆ニュースウォッチ9は政府寄りの放送が目立つ。国会での質疑は首相の独演会。
 クローズアップ現代の例―7月3日放送、菅官房長官に国谷裕子キャスターが「集団的自衛権行使容認」について鋭く聞いたことに官邸サイドが抗議したという記事(写真週刊誌『フライデー』)
☆NHKなのに番宣番組の氾濫
☆NHK会長を辞めさせるため受信料凍結の運動もじわじわと広がっている。その影響か、最近のNHKは再放送番組が多い。
☆日本放送労働組合(日放労)は以前は強力な組合だった。今は、籾井会長の会見に抗議も出来ないほど弱体化しており、OB(退職者)がやきもきしている。

9、視聴率に振り回される民放
 統計的には問題にならないサンプル数の少なさだが、数字の魔力にスポンサーは 視聴率で一喜一憂、数字でスポット広告の料金が決まるからテレビ局も死活問題。 しかし広告の中心はテレビからインターネットに移行中。

(まとめ  設楽春樹)


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