近現代史ゼミ(第3期・第20回、2012年11月24日)の報告

政治とカネ② ー リクルート事件とはなにか ―

1、事件を入り口から眺めてみれば…
 事件はリクルート社が、公開すれば値上がり確実の未公開株(グループの不動産会社「リクルートコスモス」株)を多数の政官財界の大物にばらまいたことから。
 最初、1988年6月に川崎市助役への譲渡が朝日新聞に報道された。当初より朝日新聞がこのことを追いかけて、他社は後追いの報道になる。その後、森喜朗元文相、渡辺美智雄自民党政調会長、加藤六月前農水相、加藤紘一元防衛庁長官、塚本三郎民社党委員長、中曽根康弘前首相、安倍晋太郎自民党幹事長、宮沢喜一蔵相、竹下登首相などの政治家本人や家族、秘書へのコスモス株売買が報道された。これで江副浩正・リクルート会長が引責辞職した。 江副浩正は大学生のとき東京大学新聞で広告とりのアルバイトを始め、そこから今までにないタイプの情報産業をつくりあげた。だからリクルート社はいわば隙間産業のようなもの。財界人としては一人前扱いされないところがあり、それで彼は未公開株を多くの人に譲渡したのではないか。賄賂という認識は本人にもなかったと思われる。また、未公開株の譲渡は企業としてはごく普通のことであり、検察も最初は贈収賄罪での立件は困難とみていた。
  8月、リクルート問題を調査し予算委員会で追及しようとしていた社民連の楢崎弥之助代議士の議員宿舎を、リクルートコスモスの社長室長が訪問し「リクルート社を助けてほしい」と現金500万円を2回にわたって提示した。楢崎代議士は後日、改めて社長室長を呼び出し、賄賂申し込みの場面を隠し撮りし、9月5日に日本テレビがそれを放映した。楢崎代議士は9月8日に江副元会長ら3人を贈賄罪(賄賂の申し込み)で東京地検に告発、これを受けた検察は立件に向け本格捜査を開始。

2、事件の拡大
 10月下旬から、藤波孝生元官房長官、渡辺秀央元官房副長官、眞藤恒NTT会長池田克也公明党代議士、上田卓三社会党代議士、高石邦男前文部事務次官らへの株譲渡の報道が続く。 1989(平成元)年、2月に江副浩正リクルート元会長逮捕、その後、リクルート関係者の逮捕が相次いだ。さらに、眞藤恒NTT前会長や加藤孝元労働事務次官なども逮捕されるなど、政治家だけでなく官僚、NTT関係者などが逮捕、起訴されていく。
 4月、竹下首相は政局混迷を理由に退陣を表明した。しかし政界ルートでは、多くが秘書や会計担当者の略式起訴(政治資金規正法)となり、中曽根元首相などはそれものがれて、一時的に自民党離党ということで済ませた。結局、株譲渡を賄賂と認定され受託収賄罪に問われたのは、藤波孝生元官房長官と池田克也公明党代議士だけだった。(執行猶予つき有罪確定。藤波元長官や池田代議士は、江副元会長らにより、公務員の青田買い防止についての方策を依頼されたなどとされた。) 官界ルートでは文部省と労働省が問題となり、高石邦男元文部事務次官、加藤孝元労働事務次官、鹿野茂元労働省課長が収賄罪で懲役刑(執行猶予)が確定。また、NTT関係では眞藤恒前会長ら3人が収賄罪で執行猶予つきの有罪が確定した。(コンピューターの時間貸し事業支援などの謝礼と協力を受けたい趣旨でのコスモス株提供が贈収賄とされた。)

3、「国策捜査」? -ロッキードとリクルート 『特捜検察』の「見立て」-
*メディアの報道を通じて「事件」に
  本来、事件性はないと見られていたものをメディアが執拗に報道して事件に。
*「リクルート」という新起業媒体に対する既成メディアの警戒感?
  それまでなかった隙間産業のようなリクルート社が既成メディアには脅威だったのかも。  
*東京地検特捜部とアメリカとの関係
  特捜部検事はアメリカとの関係が深い人が多い。例えば堀田力(元検事・さわやか福祉財団理事長)なども。
*検事の取り調べ、その実態 
  検察の筋書きにあてはめての取調べ。大声で怒鳴りつけたり、至近距離で壁に向かって長時間起立させられたりという取調べが行われた。
 田原総一朗も、この事件は冤罪で、メディアと検察がつくった事件だとしている。(田原 総一朗 著『 正義の罠』)

4、背後にアメリカの意向?
孫崎享 1943年生まれ。外務省時代は国際情報局長、駐イラン大使など歴任。退職後、防衛大学校教授に。
『戦後史の正体』(2012・8 創元社)
⇒〈米国からの圧力〉を軸に、日本の戦後史を読み解いた。
『…占領期以降、日本社会のなかに「自主派」の首相を引きずりおろし、「対米追随派」にすげかえるためのシステムが埋め込まれているということです。ひとつは検察です。…検察特捜部は、創立当初からどの組織よりも米国と密接な関係を維持してきました。次に報道です。…さらには外務省、防衛省、財務省、大学などのなかにも、「米国と特別な関係を持つ人びと」が育成されています。』(『戦後史の正体』より)
『アメリカに潰された政治家たち』(2012・9 小学館)
  ⇒安保条約を片務的な条約から双務的な条約にした岸信介、日中国交正常化を進めてアメリカの反感をかった田中角栄、アメリカの防衛分担の要求に抵抗した竹下登、普天間基地の県外移転を主張した鳩山由紀夫など。
『竹下登という人は、…対米追随路線と世間では考えられていますが、実像は異なります。80年代にアメリカは…「防衛責任の分担」を求めてきました。中曽根首相はそれを積極的に受け入れましたが、竹下首相は違いました。…アメリカの意向に対して猛然と抵抗しているわけです。』(『アメリカに潰された政治家たち』より)

 尖閣諸島および竹島問題をめぐって
 中国でさかんに反日デモがあった。この問題は外交問題に見えて実は内政問題でもある。中国国内の格差の問題、政権の座にある人たちの腐敗、それらについて人々は不満をぶつけることができない。そういう場合、権力者は外に敵をつくってそれに向けさせる。それが反日デモであり、愛国無罪ということになる。
 アメリカは、日本と中国が仲が良くなると困るという見方がある。尖閣諸島国有化のきっかけになったのは東京都の購入計画だった。石原都知事はわざわざアメリカに出かけていった先で、尖閣諸島を購入の会見をしている。石原慎太郎がCIAの意を体してやったとまでは言えないが、そういう雰囲気がある。
 こういう尖閣をめぐる事態は、日本の経済界にとって非常に困るのではないか。 反日デモと日系企業の直接の損害もあるが、日本の最大の貿易相手国は中国である。石原の言動、安倍晋三の論調はどうだろう。ことさら中国とことを構えようというのはまずいのではないか。

(まとめ・設楽 春樹)

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