近現代史ゼミ(2012年9月29日フィールドワーク)の報告

北毛三名城と強制連行の史跡を訪ねる

2つの台風が日本列島に近づく中、当日は晴天、24名(含講師・スタッフ)が参加した。今回は歴教協(群馬県歴史教育者協議会)との共催での実施。当日の解説はフォーラムから内藤真治講師、歴教協から久保田順一講師。両講師の丁寧な説明で充実したフィールドワークとなった。

 

戦国時代、利根・沼田地域は小田原の北条氏、越後の上杉氏、そして武田氏の命を受けた真田氏が入り乱れて争った場所で、そんな場所は他にあまりない。

①名胡桃(なぐるみ)城址
名胡桃城址  沼田氏の一族、名胡桃氏がこの地に館を築いたのが始まりとの伝承がある。この地は越後に通ずる三国街道に沿っていて、軍事的・戦略的に重要な場所であった。真田氏と北条氏の争いに対して秀吉が裁定で沼田領を分割、名胡桃城は真田氏のものとされた。このことに不満をもった北条方の沼田城代、猪俣邦憲が名胡桃城を陰謀によって奪い取り、そのことが秀吉の小田原攻めの口実となって北条氏は滅亡。この城をめぐる小さな事件がきっかけとなって戦国時代は終わることとなった。  城というと立派な天守閣があるというイメージを持つ人が多いが(天守閣の出現は織田信長の安土城以後で、近世の城の特徴)、この名胡桃城は物見やぐらや守備隊の詰め所程度のものがあっただけの山城。利根川と赤谷川の合流地近くの河岸段丘を利用してつくられている。眼下に月夜野の町、遠くに沼田台地が見え沼田城も近い。県指定史跡。(みなかみ町・旧月夜野町)

②如意寺(にょいじ)
如意寺  上越線岩本駅西側に岩本発電所(水力発電)がある。利根川上流の上牧から取水し、発電所までの導水路は14.4キロ、そのほとんどが隧道である。1942(昭和17)年に日本発送電が建設を計画、間組などが受注して43年から工事が始まった。この工事に動員されたのは強制連行された朝鮮人と中国人。過酷な労働条件のもとで中国人労働者43名が死亡した。如意寺には本堂須弥壇下に死亡した中国人の遺骨を入れていた箱が今も残っている。 また、境内に中国人殉難者慰霊碑が建っている。後に強制連行・労働に対する補償と謝罪を求め、国と企業を相手取った訴訟が起こされた。その原告のひとりに李万忠さんがいる。李さんは98年、53年ぶりに工事現場跡や慰霊碑のある如意寺を訪れた。訴訟は事実関係では完全に勝っていたが、補償については認められなかった。(みなかみ町・旧月夜野町)

水路橋 ③水路橋
  如意寺から上毛高原駅方向に向かう途中、赤谷川にかかる水路橋がある。発電所までの隧道の途中、わずかに目にすることができる水路である。長さは73.1メートル。当日は普段より水量が少なめのようだった。 (みなかみ町・旧月夜野町)


④沼田城址
  現在の場所の沼田城は16世紀、沼田氏12代の沼田顕泰(あきやす)の時につくられたという。しかしその後、激しい争奪戦が行われ、北条→上杉→北条→真田と城主が入れ替わることになる。 当日は鐘楼、西櫓台の石垣(御殿桜)、平八石などを見た。かつては5層の天守閣があったという。(沼田市)

⑤旧生方家住宅・旧土岐邸洋館
旧土岐邸洋館    生方家は沼田藩の薬種御用達を務めた商家。屋号は「ふぢや」だが、上之町の角地にあったので「かどふぢ」と呼ばれた薬屋。17世紀末の建築と見られる。国の重要文化財。保存のため、昭和48年、沼田公園内に移築した。住宅の元所有者であった生方誠の資料館が隣にある。誠の夫人は歌人の生方たつゑ。 土岐氏は最後の沼田藩主。旧土岐邸洋館は大正13年に土岐章子爵が渋谷につくった住宅を平成2年に沼田公園へ移築したもの。大正期を代表するドイツ風住宅で国の登録有形文化財。(沼田市)


雙林寺 ⑥雙林寺
  文安4年(1447)に白井城主長尾景仲によって創建された。曹洞宗の名刹で勅使門、山門、本堂と並んでどれも大きくて立派。ちょうど境内の彼岸花が美しかった。七不思議というのも面白い。本堂の県重文の木像を見せていただいた。(渋川市・旧子持村)


⑦白井城址・白井宿家住宅
白井宿   白井城は利根川・吾妻川合流点の自然の要害を利用した平山城で、築城は康元元年(1256)、長尾景熈によるものといわれるが、この時期の築城は疑問だ。 北側の城下町を源空寺から歩き始め、甲冑師の明珍一族の旧宅伝承地を通って、白井城址に入る。北郭、三の丸、二の丸、本丸と進む。今は本丸以外は一面の畑、めぐらされた堀と土塁や石垣でそれとわかる。南西方向、眼下に吾妻川が流れ、対岸に渋川市街が見える。 さらに城址の東側、ゆるい坂を下って白井宿に行く。南北の長さ950メートル、道の中央を用水が流れ古い井戸もある。道に沿って古い民家が残っている。北に歩いて、道の駅「こもち」が今回のフィールドワークの終点だ。(渋川市・旧子持村)

(まとめ・設楽 春樹)


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